----- 改訂第三版 ----- 背後の世界 その７　サタンの陰謀 December 28, 2015. 野口博正.					その８　認識と いうもののミステリー
	1．克夫の世界 平成12年（西暦2000年）12月7日：やはり、完全に、克夫を理解する事は難しいのかも知れない。だが、その一端は、垣間見る事が出来た。もう少し、がんばってみる。幾分は、理解も深まる筈だ。そこで、私は今、彼がホームページに書き残した幾つかの主張や発見を調べ直している。何故かは分からないが、彼のホームページは未だに、削除されずに、残っているので、作業は順調に、進んでいる。そして、幾つかの予言的な叙述と、世界への彼独自の認識を再発見した。いや、むしろ、発見した、と言う方が良いのかも知れない。 彼の生前は、おざなりに見る事が多かったので、断片的には、覚えていたが、今、考えると、深く理解した訳では無かったのである。予言的な叙述に至っては、当時、彼の心の状態を疑っていた事もあって、「単なる妄想だろう」と、考えていた。読んだのか、どうかすら、覚えていない。それで、試みに、予言的な叙述を、後に起こった大事件と照合してみた。すると、符合するものが数多く、発見された。これらの符合を目の当たりにして、私は、「単なる夢想ではないのかも知れない」と、考え直した。 彼はやはり、自らの識眼を反転させて、精神世界を見たのだろうか？確かに、克夫の叙述には、常識では、説明仕切れないものも、時折、見られる。そして、私は今、その様な叙述を真実として、受け入れ兼ねない状況にある。だが、識眼の反転は単なる妄想であり、その様な予言と現実との符号は偶然である、と考えたい心理も、心の何処かには、存在している。克夫の予言は、本人すら気付かないままに、培った、科学的洞察力の賜である、と考える方が、気持ちが落ち付くからである。それにしても、はたして、どちらの解釈が適切なのか？私は今、その狭間で、迷っている。だが、此処まで、来ると、その様な迷いはもう、断ち切った方が良いのかも知れない。無論、どの様に断ち切り、どの様に理解するのか？については、もう少し、考える必要はありそうなのだが・・ ところで、彼の言う様に、各々の意識が本当に精神世界のこの世への窓であるのなら、それは現在に限らず、精神世界を通して、過去、未来の至る所に開いている、とも言えそうである。その故に、彼は人の心のみ為らず、過去、未来についても、知る事が出来る、と考える事が可能である。精神世界はおそらく、時空を持たないので、これは当然の帰結のように思われる。 つまり、その様な認識の方式は時空の壁に阻まれない、と言う事である。これは我々が本などから、情報を得る事と、非常に似ている。言ってみれば、それは今、ある事象を見ている人間がその事象を認識して、彼なりの理解をする事とは幾分、異なっていて、本を著した人間の認識、理解を情報として、受け取り、その人間の見たものを理解する状況と似ている、と言う事である。
			従って、これは精神世界を通して、直接、未来や過去を見る事が出来る、と言う事を意味しない。それはあくまでも、過去、あるいは、未来にいる他者の意識を通して、見るのである。また、その為に、その様にして見た世界はあくまでも、他者の認識する世界である、と言う事を忘れては為らない。その他者の意識が低ければ、譬え、特異な能力を持つ克夫でも、つまらぬ認識しか、得る事は出来ない、と言う場合も起こり得る。事実はともかく、理屈の上では、そうである。いずれにしても、確かな事は、克夫が先に述べた様な方法で、未来を見た、と言う可能性を否定する事は、誰にも、出来ない、と言う事である。 そこで、私は更に、彼の基本的な観点と論理を順を追って、探って行った。すると、それらは認識の主体と認識対象との関係、また、その関係に基礎を置く、概念と現象との関係を説明するものである事が窺い知れた。つまり、彼は現象と概念との関係は認識主体とそのオブジェクトとの関係に基礎付けられる、と考えていたらしい。 また、生物の進化を含む情報（記憶）の進化と、その様な情報と情報媒体との関係についても、説明している。そして、それら全ての関係は認識への意思に基礎付けられる、と言う事らしい。また、精神世界と物理世界は認識主体と、その対象の外観であり、それらは波動と言う情報によって、繋がっている、と、彼はその様に考えたらしいのである。
	したがって、彼の考え方に沿って、考えるなら、精神世界と物理世界、そして、各々の精神をつなぐ情報は元来、別ものではなく、認識の主体と認識対象との関わりで、概念化されるだけである、と言う事に成りそうだ。従って、唯心論と唯物論との論争は、彼にとっては、意味がない。また、その様な関係の論理的帰結として、可能世界の実在が考えられた。彼の言う可能世界とは、波動の世界であり、その波動は現実の存在ではないが、物理的な実在であり、情報でもある。その故に、波動としての可能性が何者かに認識されて、物理的存在として機能するなら、それは実体として、また、現実として、実現する。簡単に言うと、その様な実体は、この世界の人間に現実である、と、承認される。 だが、その様な波動は未だ、認識主体には届いていない情報であり、その故に、その情報はある範囲において、ある確率で、変動する可能性を秘めている。ちなみに、この仮定では、波動が何らかの障害の為に、認識主体に到達し得ない場合も、考慮されている。また、当然ながら、波動は認識主体に届いた瞬間には、粒子と成って、認識される。つまり、波動は現在という数学的点に位置する認識主体に届いた瞬間、現実的な存在として、確定的な何ものか、として、認識される。 彼は以前、「物理現象は全てが情報である」と言っていたが、この事を言いたかったのに違いない。また、この様な情報の概念は物理現象だけではなく、あらゆる事象に適用し得る。情報は伝達されるまでは、それが果たして、どの様な内容であるのか、分からない。また、内容が変えられて伝えられる可能性、そして、ある認識主題には、全く伝わらない可能性なども考えられる。その故に、人々が認識する、いわゆる現実には、可能世界の一部が混入している。つまり、其処には、在って欲しい現実世界、自分の見たものから類推する想像上の現実世界、などが紛れ込む。それらは当該の認識主題にとっては決して、彼の現実ではないのにも拘わらずである。少なくとも、克夫はそう、考えていた。 だが、大学時代、説明能力の衰えを見せた克夫が此処まで、説明し得たのは奇跡に近い。彼は以前、「俺の考えは神の啓示だ」などと、冗談めかして、述べた事もあったが、改めて、彼の残したものを見ると、あながち、冗談であった、とも、言い切れない。「いや、彼は本当に、そう確信していたのに違いない」と、一瞬ではあるが、私はその様な錯覚にも、陥った。 だが、それは本当に、錯覚だろうか？認識をする者にとって、世界は客観的な世界ではなく、最終的には、主観的な世界である。客観的な認識を納得した瞬間、それはもはや、客観的認識ではなく成って、主観的な認識と成るからである。少なくとも、彼の論理から見るならば、そう、言わねばならない。そして、彼の構築した考えはかなり、精緻である様にも、思うのである。 そして、彼の観点から、見てみると、無神論者、唯物論者などが、神やサタンの存在を否定する根拠は、やはり、薄弱である様に思われる。無論、神やサタンは物理的存在ではあり得ない。しかし、物質的存在以外の存在など、存在し得ない、と断言する事など、不可能である。
	例えば、それはある情報媒体に載っている情報である。情報は明らかに物質では無い。そして、この場合、その情報媒体を目にする人間の全てが、其処に載っている情報を認識出来るとは限らない。この事が何を意味するのかは、もし、懸命な人間ならば、察しが付く。もし、何者かが適切な考察に基づいて、本心から、神やサタン存在する、と言うのであれば、その存在は彼の世界観や、客観的な認識と整合性を持っている、と想定する事は不可能ではない。つまり、神やサタンの特質は脇に置いて、彼の世界には、何らかの神とサタンが存在する、と考えねばならないケースも起こり得る、と言う事だ。 ならば、やはり、克夫は彼の世界に存在する神から、啓示を受けて、意識の窓を反転させ、過去や未来を垣間見、また、未知の真実も、見付ける事が出来た、と言う事だろうか？私の想像も、あながち、間違いとは言えないのかも知れない。いずれにしても、彼は、整合性の無き認識はただの妄想に過ぎない、と言う事を知っていた。 ただ、今の私の立場から、見るならば、それは「彼の言葉は真実かも知れない」と、言う程の認識に留めるしかない。神の実在はあくまでも、私にとって、彼の言う可能世界での事象であった。それは今の私においては、永遠の可能世界である、と言う事も出来る。私が神からの情報を受け取った事はまだ、一度も、無いからだ。
	ところで、彼の言う神やサタンは無数の存在であり、実は、そうでは無くて、単一であり、複数でもある、と言う様な認識不能な存在であるので、この事については、留意をしなくては為らない。無論、この文章は一見、論理的な矛盾を含む様に見えるが、思考の対象を元来、認識不能である、と断っているので、実を言えば、矛盾ではない。 克夫によれば、その様な神やサタンが事象を起こし、認識される時、初めて、区別が生じ、数える事が可能と成る。ちなみに、これは、神あるいはサタンが必ず、単一の存在として認識される事を意味しない。たとえば、Aと言う事象と、Bと言う事象を同じ神が起こした、と言う証拠は誰も、見つける事が出来ないからである。詰まるところ、それは信念の赴くところによって、異なるのであり、其処に、客観性を求めるのは、間違い、と言わざるを得ない。その意味で、神は信じる者の前でしか、自らを示す事象を起こさない。 だが、彼の言う神やサタンと言う実在は果たして、彼の世界だけの事実であろうか？私にとって、本当に、永遠の可能世界であろうか？私は彼の論理を追う内に、その様な疑問に捕らわれ始めた。
			2．然もなくば、サタンはきっと、現れる 克夫は、「各々の心は精神世界の窓であるから、その様な心は全て、精神世界を通して、繋がる事が出来る」と、言っている。そして、それは実体験として、語られていた。もし、その話が妄想ではないのなら、彼が存在を信じる神やサタンは精神世界を通して、私の世界にも、入り込む事が可能である。少なくとも、論理的には、その様な結論が導き出された。 想像すると、気味が悪くて、私は一瞬、思考を止めたが、否定し切れぬ、と言う心理も働くのである。私は既に、彼の世界に引き込まれていたのかも知れない。だが、それは彼の所為ではなく、おそらくは、私自身の責任だった。 もし、彼の論理が適切ならば、私の世界には、本来、私の神とサタン、あるいは他の精神的支柱がなければ為らない。だが、私は、まだ、その様な精神的な支柱を意識した事は一度も、なかった。従って、私の主観的な世界には、基軸が無く、また、その故に、論理的な整合性も、殆ど、なかった。つまり、私の主観的な世界は客観的世界に埋没していた。 その故に、私はいともたやすく、彼の世界に引き込まれたのではないのか？客観性は全ての主観的認識を結び付ける唯一の絆であるからだ。つまり、私は自分の未熟な思考や認識の所為で、克夫の論理に付きあう間に、克夫の認識をあたかも、客観的認識の様に錯誤して、彼の世界に引き込まれた。おそらく、それは客観的認識を自分の主観的認識へと消化するほどの世界観を持っていなかった所為でもあった。厳密に言えば、客観的な理解を得る、と言う事と、同じ認識をする、と言う事は全く、同じではないのだが、自分の世界が曖昧で、客観的認識のみに捕らわれているなら、往々にして、それらは同義と成った。
	だが、この作業を始めた当初は、私はまだ、この事に気付いてはいなかった。私の最大の関心事は世界に対する彼独自の認識と、彼の抱いていた不安であった。彼の認識については、取りあえず、分かった様に思うが、不安については、まだ未知の部分がありそうである。ただ、原初的には、その不安は愛情が失われ、暗闇に閉ざされる事への不安である事は確かであった。そして、その不安は彼に、彼が幼少期に感じた越えがたい障壁を強く、意識させた。また、その故に、見えざる障壁を強く意識し続けた克夫は、ついに、あの障壁をサタンと見なして、サタンと言う存在を概念化した。 その故に、可能世界にいたサタンは克夫が認識すべき実在と成って、此の世に姿を現した。逆に言うならば、克夫がサタンを認識した瞬間に、サタンは実在として、此の世に現れた。つまり、此の世に居る克夫と可能世界に居るサタンの間の情報交換の可能性が現実化した。そして、その現実化が起こった瞬間、サタンは現実の存在と成ってしまった。また、その所為で、サタンだけでは無く、サタンについての情報も、此の世に届く事と成ってしまった。 それらの情報の一部は、克夫によって、サタンの陰謀に拘わる、と解釈されて、あの手紙に書かれたのに違いない。つまり、彼は精神世界を見て、サタンの存在と、サタンの秘密を知ってしまった為に、様々な妨害に見舞わて、ついには精神病院に囚われた。私は今、そう、感じている。 しかしながら、もし、克夫の陳述についての私のイメージが実態に近いのなら、ひょっとすると、克夫が掴んだのは、サタンの秘密と言うよりは、むしろ、世界というものの秘密であったのかも知れない。しかし、完全に掴んだ、とは思っていなかった節も、窺える。その故に、彼はその秘密を知る事をサタンが妨害している、と感じたのではないのか？彼には、本当に知り得た、と言う充足感はおそらく、なかった。
			私の立場から見るならば、彼のサタンは原初的には、やはり、彼の心の中にある自身と外界との障壁だった。だが、彼においては、その様なサタンは実体であり、サタンの陰謀と妨害は疑う事の許されぬ事実であった。彼のサタンは果たして、私の世界に来るのだろうか？今、この不安は私の中で、益々、強く成っている。だが、これはあくまでも、私自身の問題なので、今、為すべきは、自分の世界の論理的な整合性を高める事に違いない。克夫の世界に引き込まれては為らないのだ。然もなくば、克夫のサタンは現れる。私は今、そう考えている。 それにしても、克夫は何故、この様な世界を選択したのだろう？あるいは、選ばざるを得なかったのか？おそらく、当時の彼の生き甲斐は世界を知る事だけだった。それは彼の人間関係への不器用さ、消極性などが原因している様に思われる。そして、その不器用さ、及び、消極性には、おそらく、サタンに象徴される問題の壁が関わっていた。そして、ひょっとすると、その壁は神とサタンとの、相克の象徴であったのかも知れない。あるいは、逆に、彼の不器用さと消極性が彼の、神とサタンを呼んだのだろうか？
	いずれとも良くは知らないけれども、中学時代の彼の両親の問題と同様に、会社を辞めた事が彼の心に深い傷を負わせたらしい。意識的か、どうかは、別として、その時から、彼は世俗的な願望を捨てたのである。また、その代わりに、彼は世界の本質に迫ろうとして、自分自身に、自身の精神性を追求させた。 もっとも、彼がその様な自分の心理に気が付いていたか、どうかは、分からない。だが、彼が自分のアイデンティティーを保持しようとしていた事は窺い知れる。「自分は、自分であらねば為らない」少なくとも、彼の無意識は彼にそう、命じていたのに違いない。そして、その仕事は自分が認識者である事、すなわち、自分自身と世界を知る事で達成される、と彼は信じた。いずれにしても、彼はある時点から、自分が認識の主体である事を忘れる事は無かった様に思われる。 だが、彼の唯一の生き甲斐も、様々な妨害によって、妨げられる。自分自身の説明能力、命を繋ぐ為の雑多な活動、他人の無理解、蔑み、妨害、そして、性欲や貧困や老いなどである。 特に、貧困のもたらす苦しみは身体的苦痛には、留まら無かった。貧困は蔑みや侮り、孤独など、精神的苦痛も、もたらすのである。そして、彼自身が以前、ゲームソフトの開発について、語った様な、アイディアを盗まれる恐怖にも、脅かされた。彼はその様な環境で、自分の仕事をし続けたのだ。彼の仕事が進まなかったのも、うなずける。 しかも、年月は、彼の焦燥感に、一顧すら、せず、否も、応も、言わせずに、過ぎ去って行く。そして、老いが思考能力、認識能力などを奪い続けた。貧困は老いを助長するので、その様な老いの弊害は加速度的に顕在化して、彼を悩ませたのに違いないのだ。
	認識者が認識を失って、適切な理解が不能に成る事は、全く以て、死に等しい。いや、死そのものである、と言っても良い。彼はその様な死と戦っていたのに違いない。その事は、私も彼と同年代であるので、おおよその事は理解が出来る。 しかしながら、彼はその様な認識への障害を、人の仕業や単なる自然現象とは思わなかった。彼はそれらの障害をサタンの仕業と理解した。それは彼が人の魂を神そのものと理解した事と関わりがある。神は悪事を行わない。人が悪事に手を染めるのは、サタンが唆すからである。彼はその様に考えた様に思われる。あるいは、その様に考えるべき、と思ったのかも知れない。 いずれにしても、彼の敵はサタンであった。そして、サタンは今、自分の認識を邪魔しようとしている。それはもはや、彼の確信だった。此処に至って、彼だけの知られざる戦いが始まったのである。その事は貧困に喘ぎながら、憑かれた様に書き続けていた彼の姿からも推測し得る。氷の様な孤独の中での、彼だけが知る戦いだった。そして、それは絶望との戦いでもあったのかも知れない。
	彼の不安はまず、認識を阻害される事への不安であった。だが、彼の言動や書いたものを見るならば、それは同時に、世界崩壊への不安でもあった。彼は精神世界を覗き見て、その様な予兆を感じたのだろうか？いずれにしても、彼の論理から見るならば、彼の抱く世界崩壊への不安は論理的な帰結、と思われた。 認識主体無き認識対象はあり得ない。認識主体が存在しないなら、認識対象が何処かに存在する可能性はあるとしても、認識されていないのであるから、可能世界に存在するとは言えても、それは決して、現実世界に存在するのではない。つまり、認識主体である克夫の世界は彼の認識によって、成り立っているので、彼にとって、認識を失う事は彼の世界が消失する事を意味したのである。 従って、彼の認識が崩壊するなら、世界が崩壊する事は自明であった。そして、その様な世界の崩壊が彼の世界に限定される、とは断言出来ない。その様に考えていた節も、窺えるのである。そして、それは、「彼のサタンが私の世界に侵入するのではないか？」と、言う私の不安にも通じる。いや、彼の場合、それは確信であったのかも知れない。彼がつたない文章を公表したのは、きっと、その所為であったのだろう。 おそらく、彼の世界の崩壊が客観的な世界を通して、私や他の人々の世界にも影響をもたらすだろう、と言う確信があったのである。前にも、述べたが、客観性は全ての認識を繋ぐ絆であり、全ての世界は精神世界を通して、繋がっているからである。そして、おそらく、その事は彼が自身の認識の整合性に自信を持っていた事と関わりがあった。 ちなみに、彼は以前、間主観性（Intersubjective）の概念は単なる妄想だ、と言っていた事を想い出した。つまり、彼は全ての認識は客観的認識と主観的認識とに峻別できる、と考えていた。それは、たとえば、数千人の人々があるグループを作って、そのグループがある事象を認識する時、その認識の主体は個々の人間では無く、あくまでも、そのグループであり、そのグループが一個の認識主体として、ある事象を認識するからである。そして、その認識はそのグループの主観的な認識である事は言うまでも無い。無論、そのグループに居る幾人かは、問題の現象を何らかの方法で認識する筈だが、それは個々人の個別の認識であって、グループの認識では決してない。まあ、これ以上、説明しても、しょうが無いので、これが間主観性の概念が妄想である証拠である、とだけ、書き留めておく。
				少し、脇道に逸れたので、本題に戻す。認識の論理的整合性はその認識をする人間が理解する世界の精神的、物理的大きさと関わりがある。また、たとえ、誰かが私と同じ現実世界で生活しているとしても、主観的な世界の大きさは異なっている、と言う事だ。だから、私の世界が彼の世界に含まれる可能性も無しとはしない。何故ならば、世界はあらゆるものの集合であり、基本と成る概念を操作すれば、あらゆる集合はあらゆる集合を含む事が可能であるからである。従って、整合性の高い克夫の世界が私の世界を含む可能性は大きいのである。彼のサタンを呼び込まぬ為には、まずは、自分の世界の整合性を高めなければ為らない。 だが、それだけで、十分だろうか？認識主体は無数にある。そして、その殆どが整合性無き世界に住んでいる。この事は非常に、重大である。私は今、この事で、酷く、戸惑っている。
目次
	その一　狂気の手紙 　　その二　克夫の生い立ち 　　その三　奇縁 　　その四　克夫の能力 　　その五　ライフワーク
	その六　迷える魂 　　　　　その七　サタンの陰謀 　　　　　その八　認識というもののミステリー
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