日本文化の源流、その論理的帰結としての世界観
	修正しました。野口博正 December 18, 2011. 旧版
	目次
	はじめに・日本の精神的諸問題　　 １．文化と文明　〜　生態系と民族 　　２．日本文化への基礎的理解 　　　　２−１．日本民族の形成 　２−２．日本の言語 　２−３．日本人の脳と日本の文化 　　３．神々に潜む縄文の精神 　　　　３−１．我々の精神の二重構造 　３−２．別天津の神の神性 　３−３．神々の変質 　３−４．神々の里 　３−５．恵比須の誕生 　　４．縄文の世界観 　　　　４−１．縄文の世界〜利益と物々交換 　４−２．縄文人の宗教観 　　　　４−３．「国産み」と「イタｸ 」の思想 　４−４．我々に潜む世界観 　　５．神産霊神、高皇産霊神に見るサブジェクトとオブジェクト 　　６．認識主体から見る物理世界（固有の時間、主観的時間、客観的時間） 　７．情報と認識主体 　　はじめに・日本の精神的諸問題 日本列島と呼ばれるこの島々には、古来から様々な種類の人間達が様々な共同体を形成し、覇権を争い、それぞれの血と文化の融合を繰り返しつつ、列島特有の文化を作って来ました。そして、その過程はある時期、中国の東夷伝に記述される倭と呼ばれる民族を産み出します。 しかしながら、ある意味で、その様な民族形成の歴史、政治的統合の歴史は少なくとも縄文時代の後期まで遡る事が可能です。また、倭人の精神を基礎付ける文化の場合は、更に縄文時代前期にまで、遡る事が可能なようです。 その事は本文で詳しく述べられますが、我々の文化は少なく見積もっても、一万年以上も前から、ある一貫した特質を保ち続けている世界でも希な文化なのです。少なくとも、文明を持った民族としては、この言明は正しいでしょう。そして、その様な我々の文化は本文で述べられる我々の脳の特性の故に、文明社会が失った自然に対する畏敬の念、自然を裏切る事への畏怖の念に基礎付けられております。 しかしながら、我々は今、少なくとも意識の上では、その様な心を忘れつつあります。つまり、その文化の基底にある精神は弥生時代から現代に掛けての絶えざる抑圧に晒されて、心の下層へと追い遣られつつあります。その理由については、本文で詳しく述べられますが、その様な抑圧者が文明社会の論理であり、古代に於いては弥生的な、近代にあっては西欧的な、合理主義的精神である、と言う事だけは言って置きたい、と考えます。 また、本来の我々の精神は非常に直感力に優れた特性を持ちますが、現在の我々の精神はその様な抑圧の構造、すなわち、本来の精神に合理主義的精神が覆い被さる二重構造を持つ故に、本来ある筈の直感力はともすると、眠りがちです。また、我々の直面する問題の多くはその様な精神の二重構造に気付かぬ事から起こっております。 現在、日本と言うこの共同体は様々な意味に於いて、グローバリゼイションの荒波、高度文明化の嵐に翻弄されております。これは我々にとって、また、その求心力が元来、縄文文化に基づいている我々の社会にとって、非常に深刻な問題です。我が日本はグローバリゼイションの荒波に対して、非常に受け身である様に思われます。 その為に、この荒波は西欧的合理主義の侵略と言う側面が非常に強く出てしまいます。それはおそらく、我が日本からの、日本文化に基づく相対主義的原理の発信、と言うものが殆ど、見られないからであるしょう。絶対主義的世界観が逃げ場のない争いを巻き起こしている現在、相対主義的世界観の寛容性が必要である様に思うのですが、日本は果たして、その様な態度を表明など、しているのでしょうか？ また、国内に目を転じますと、建築物や諸制度は随分と整備をされ、立派にも成りました。しかしながら、今、それらは自己目的化、あるいは自己満足化をして、それらを産み出した本来の心が、ともすると忘れられる様に思われます。それは伝統的文化に携わる人々にも、時として、見受けられる傾向です。中には、単なる集金装置に堕落しているのではないのか、と思わせる組織すら、見受けられます。おそらく、それは共同体の核として、本来、持つべきである精神的な原理を見失っているからであるでしょう。 いずれにしても、確たる羅針盤無しで、この嵐を乗り切る事は極めて困難な業であるように思われます。この嵐は我々の予想を遙かに超える歴史的なうねりなのです。また、当然ながら、グローバリズムは個性を失う事では無く、ましてや、共同体を霧散させる事ではありません。むしろ、我々は日本文化に基づく個性を更に磨いて、我が国の国際社会における価値を高める事が必要です。 従って、共同体の核と成る精神的原理は必ず持たねば為りません。理由は後に述べますが、その様な原理は日本の場合、古代の合理主義、あるいは、西欧的合理主義に拠ってではなく、縄文文化の魂によってのみ保たれます。日本が合理主義の余りにも強い影響の許にあるなら、政治については勿論、あらゆる分野で、多くの間違いが起こる様に思われます。 先の大戦に於ける失敗も、あるいは、その事とも、関係しているのかも知れません。急速に力を伸ばす新興国では、しばしば、見られる状況ではあるのですが、先進諸国の文化、論理、合理主義、などを表層的な理解に留まったまま、真似る事で、しばしば、内政上の、そして、外交上の失敗が起こります。そして、それは急速に力を付けた事から来る過信とも関係があります。その為に、我が日本はかつて、筆舌に尽くし難い辛酸をなめました。あるいは、それは、ヨーロッパの絶対主義に毒されて、日本文化特有の相対主義を忘れた所為であったのかも知れません。そして、これはおそらく、日本文化に根ざした日本独自の哲学が長い間、忘れられていた事とも関係があります。 しかしながら、今、日本の精神は日々の余りにも繁忙な生活の所為で、失われつつある様に思われます。無論、意識的にではないにしても、我々の心には、日本独自の哲学が息づいております。ですが、今、それは半ば、無視された状況にあるようです。その様な社会の風潮のなかで、行動の基盤であるべき精神的な原理を想起する事はそれほど簡単ではないでしょう。 しかしながら、もし、この状態が依然として続くなら、社会問題の多くが本当の解決を見ずに、くすぶり続けるのかも知れません。そして、おそらく、日本経済の変調も、この様な原理喪失を抜きにして、語る事は出来ないでしょう。経済政策の精神的基盤が明確に成らないからです。現在の社会問題は、差し当たり、西欧から、取り入れられた借り物の原理が力を失った、賞味期限に達して仕舞った事に原因がある、という事であるのかも知れません。 逆に言えば、我々は少なくとも明治以降、あるいはそれ以前から、自身の文化に根ざした原理を持ち得なかった、と言うよりは、持っている事に気付かなかった、と言う事なのです。ちなみに、鎌倉時代以降の武士の世に於いて、その本来の魂への揺り戻しが為された形跡はありますが、意識的に行われた、とは言い難く、それは不完全なものに終わりました。無論、完全なものなど、イディアの世界にしかありませんが。 おそらく、それは各時代のインテリ層が余りにも権力機構の維持と外来の文化とに捕らわれ、それらの接ぎ木細工に精力を費やした為に、そして、日本文化を誤解、あるいは曲解した為に、本来、日本文化から抽出をされるべき原理を構築し得なかった、その結果であるように思われます。また、それは武士の世だけでは無く、明治以降も同様です。 あるいは、それは日本の権力構造と精神文化との間にある根深い矛盾を直視する事への恐れの所為であったのかも知れません。それとも単に、外来の文化、あるいは、西欧文明への盲目的信仰の所為であったでしょうか？また、時としては、その反動として、わき起こった外来文化への排斥的気分の所為であったでしょうか？ いずれにしても、精神的原理への無関心は今、日本の文化に未曾有の危機を招来させております。また、この様な精神の危機は三島由紀夫が直感的に見抜いたように、日本民族存続の危機でもあるのです。ただし、これは彼の日本文化への解釈が正しかった、と言う意味ではありません。日本の文化はむしろ、彼の理解とは異なる別の精神的基盤に基礎付けられる、と考えるからです。 ちなみに、精神的原理への無関心は今や、日本だけの問題では無さそうですが、日本に関して言えば、思想らしい思想が殆ど産み出されぬ状況に端的に現れております。特に近代日本に於いては、抵抗の論理すら、輸入に頼る体たらくです。思想など無くても、生きては行ける。今や、それが一般的風潮であるように思われます。 また、その故に、多くの日本人は日本に特有の精神基盤の上に生きていながら、その事に殆ど気付いておりません。あるいは、気付いたとしても、無視しております。従って、その様な無視から生じる今日の危機にも殆ど気付いてはおりません。あるいは、無意識に考える事を忌避しております。また、その故に、本来の原理を打ち立てられず、借り物の原理、あるいは接ぎ木細工でお茶を濁して来たのでしょう。ちなみに、上に述べた危機と言うのは共同体に於ける求心力の弱体化に関する危機を意味します。 しかしながら、それは本来の日本の姿とは思えません。また、それで済むとも思えません。我々が本当の自信を取り戻す為には、そして、日本が本当の主権国家と成る為には、先入観や偏見を捨てて、日本の歴史を直視し、我々の精神的基盤と原理を歴史の内から見出す事が必要なのです。我々の心と行動様式は後に述べられる我々の脳の特性に基づいて、歴史の中で綿々と培われて、受け継がれて来たのですから、そうする事は至極、当然である、と考えます。 近代日本は、政治や経済などのシステムを欧米に学んで、取り入れました。しかしながら、その様なシステムや諸制度はそれらを産み出した民族などの固有の文化に基づいており、また、その様な文化的土壌があって始めて適正に機能をします。無論、日本は昔から外来の文化、文明を取り入れる事に長けております。それで、明治以来、続けられた諸制度の西欧化に成功したかにも見えました。 ですが、やはり歪みはあったようです。そして、その歪みは急速な西欧化の所為ばかりでは無く、日本文化及び歴史に対する日本人自身の誤解の所為でもありました。それは日本民族の成立と古代史への正しい理解が未だ、為されていないからです。つまり、日本文化と日本の歴史への誤った理解が日本文化と西欧の諸制度との整合性を妨げた、接ぎ木細工に留めて仕舞った、とも言えるでしょう。 我が国の民主主義にしても、その例外ではありません。民主主義についても、適正な日本文化への理解から導き出される原理原則が必要なのです。あるいは、日本文化からその様な原理を見出し得るのか、と首を傾げる方もお有りでしょう。しかし、それは外来の文化に毒された恐ろしい偏見でしか在りません。 近代の西欧には、一神教に基づく民主主義が存在しますが、日本には、多神教的民主主義が存在し得ます。日本神話を歴史と照合しながら、批判的に考察するなら、少なくとも日本の多神教的世界観の根底には自由平等の論理が内在して居る、と考えるからです。 ただし、それは神話の奥深いところに押し隠されており、また、その様な哲学を表現する人間、組織もありませんので、我々は神話の構造だけでは無く、自身の精神構造、文化的な構造へのごまかしの無い認識から出発しなくてはならないでしょう。 勿論、これは難しい問題を孕んでおります。必ず認め難い真実に向かい合わねば為らないからです。しかし、誤謬は正さねば為りません。今の日本の混迷はこの事がなおざりにされて来た咎めである、と考えるからです。我々は今こそ、日本文化の源流を知るべきなのです。
			なお、以下に述べられる考察はアイディアが産まれると、その都度、Ｊｕｓｔ　Ｎｅｔのホームページに、 　 Evolution and information and thought. 　 The basic idea at The myth of the shade. 　 Relations between the black hole and me. などとして、書き込まれたもの(１９９７年から２００１年)を訂正し、発展させて、纏めたものです。
Cotosiro