日本文化の源流、その論理的帰結としての世界観
	修正しました。野口博正 December 18, 2011. 旧版
	神々に潜む縄文の精神　我々の精神の二重構造
	日本人の心の底には、我々の本来の魂、縄文の魂が宿っております。それは我々がその遺伝的基層として、縄文の血を持つ如く、我々の脳の特性の故に、その文化的、精神的な側面をも受け継いだからに他なりません。しかしながら、現在の我々に関しては、周知の通り、縄文人の血は相当に、希薄と成っております。無論、それは前に述べた様に、古代の列島住民の多くが覇権を争う為に、戦わざるを得ず、また、その為に、弥生文化、そして、大陸からの移民を受け入れざるを得ぬ状況にあったからです。 その結果、縄文人の血は急速に薄まりました。また、その故に、縄文の魂は弥生文化が力を持つに連れて、その表現を陰に陽に抑圧される様に成りました。当時、各部族の支配層は既に弥生人であり、列島の各部族は数多くの闘争を繰り返しながら、大和を中心とする一個の権力機構へと集約をしつつあります。 また、その様な権力集中を支えた原理が弥生的合理主義的精神であり、その手段は神々の系列の一本化、及び、神々に対する聖なるヒェラルキーへの組み込みでした。つまり、神々は自らの神性を変える事を強いられました。そして、自由を失いました。 一方、縄文の魂を基礎とする縄文の文化は元来、原始共産主義的な分配方式とアニミズムであり、神々の序列の未だ混沌とした多神教的な精神でした。そして、後の交易の活発化にも関わらず、弥生化する以前の縄文人達の社会では、その様な分配方式、経済の在り方、そして、政治、及び、宗教の形態は基本的には変わらなかったように思われます。また、神々はそれぞれの自由を保持し、おおよそ、平等な関係にあった様に思われます。つまり、その様な社会システムの中で培われたアニミズムと多神教的な精神は個人の尊厳と独立性を尊重する気風を培ったように思われます。 自由な神々は取りも直さず、個人の尊厳、独立性を意味するからです。また、その様な精神風土は縄文人が海洋民族であった事とも関係しており、多彩な種族との活発な交易によって培われた、とも言えるでしょう。また、列島が弥生化する前の縄文人は非常に外向的であり、小さな船で海を渡って、遠隔の地に赴き、様々な人々から知識を得ていた、と想像する事はそれほど難しくありません。 しかしながら、その様な個の精神は権力の集中を目指す弥生の権力者に取っては、非常に不都合な精神でした。それは反権力の精神、野蛮の象徴として意識をされて、抑圧をされる事と成った訳です。また、この事はより弥生的な支配部族、あるいは支配層がより縄文的な敵対勢力、及び、被支配部族、あるいは被支配層と、少なくとも精神的には、対峙する時代が長く続いた事を示唆するように思われます。 権力者の求める弥生的合理主義的精神は文明の精神であり、権力と組織の精神です。それは個の精神とは馴染みません。縄文の魂と文化とは抑圧されざるを得ませんでした。その故に、縄文の本来の魂はその様な時代の趨勢の為に、心の奥底へと追い遣られました。其処に弥生的な精神が覆い被さる、我々日本人の精神はその様な二重構造を持つに至りました。ちなみに、精神の二重構造は我々日本人のみの問題ではありません。 文明社会であるなら、どの様な国民、民族にも存在し得ます。無論、その内容が異なる事は言うまでもありません。さて、話を元に戻します。我が日本に於いては、上記の様な事情が、人々がそれとは気付かぬ内に、弥生文化に基づく支配体制への恨みを個々人の心にもたらします。そして、それは拭い難き怨念として、心の下層に住み着きました。 神々については、それは祟り神として現れます。それが弥生的支配体制に向けられた縄文の心が発する怨念でした。しかしながら、この様な祟り神と怨念については、少しテーマが異なりますので、此処では、詳細は述べません。 さて、以上で述べた縄文の神々と文化への抑圧の図式は天津神が国津神を治めて、また、天尊族が愛彌詩などを征服して行く記紀などの神話の記述に重ね合わせる事が出来ます。そして、自由な神々は次第に権力を支える神々へと変えられて、天照大神を頂点とするヒェラルキーを形成するに至ったのです。 その集大成が藤原不比等とその盟友、太安万侶などの編纂した古事記、日本書紀です。この様な神々の在り方はまさに、弥生的合理主義的精神を体現しております。そして、弥生的合理主義的精神は弥生時代以降、ひょっとすると、第二次大戦が終わるまで、日本に於ける政治的な、そして、精神的な基本原理と成っていました。そして、一般の人々も、表面上、あるいは、無意識に、弥生的合理主義を受け入れました。しかしながら、一般の人々の基底にある精神的な原理はあくまでも、縄文の魂でした。彼らの殆どがその事に気付いていないのにも拘わらずです。その故に、精神の二重構造は益々、強固となりました。 ただ、上記の神話をまとめ上げた人々の心にも、縄文の魂は宿っております。その為に、記紀の中には、縄文の臭いを発する記述も少なからず、見受けられます。記紀にしても、我々の持つ精神の二重構造から、逃れる事は出来なかった、と言う事でしょう。 さて、前にも述べた様に、明治以降、この様な原理は西欧の立憲君主などの制度, そして、西欧的な合理主義と接ぎ木をされます。そして、ある意味、その様にして接ぎ木された原理は昭和の敗戦に至るまで、機能し続けておりました。そして、今の日本はその様な歴史の上に成り立っております。我々はこの事を事実として受け止めなければ為らないでしょう。たとえ、その事が第二次大戦の惨敗を招いたとしても、それらの事実は我々の血と成り、肉と成っております。その事を否定して、無い事にする行為は自身の否定に他なりません。自身の否定からは、何の展望も開けて来ません。事実を掘り下げ、自らの誤謬を知り、反省し、正す事が必要である、と考えます。 さて、話を戻しますが、その様な歴史にも関わらず、我々を日本民族とする我々の脳の特性の故に、縄文の魂は今もなお、残っております。また、一方では、上記で述べた弥生的な支配の原理も西欧諸制度の皮を被って、今もなお、生きております。ですから、古代に培われた精神の二重構造、そして、怨念は決して過去の遺物では無く、まさに現在の我々の問題なのです。その事は無感情な組織の論理が個の論理を圧殺する現状を見るならば、すぐに理解が出来るでしょう。 ただし、これは、日本だけの問題ではありません。その内容こそ異なるものの、文明のあるところでは、何処でも見られる光景でしょう。共同体の存続という観点から見るならば、精神の二重構造の問題は、あるいは、その度合いの問題なのかも知れません。けれども、その度合いを決めるのは当該の権力機構でない事だけは確かです。 いずれにしても、我々はまず、我々の精神と文化とが精神の二重構造に基礎を置く、という事を認識しなくては為りません。そして、我が日本が少なくとも制度的には民主主義国家と成った今日、我々はその意識において、本来の自由な魂、つまり、縄文の魂を取り戻さなければ為りません。 さもなくば、日本は何時まで経っても、精神の欠けた制度のみの民主主義、また、賞味期限付きの借り物の原理に頼らなくては為らないでしょう。そして、もし、このような状態が続くなら、我々は常に砂上の楼閣を建て続ける事を強いられるでしょう。これは決して、賢い選択とは思われません。我々は今こそ、自身の内面を、そして、我々の精神の基盤を見つめ直す事が必要でしょう。誤謬に満ちた歴史観、世界観が恐ろしい悲劇に繋がる事は、過去の歴史を紐解くまでも無く、自明であるように思われます。 今、我々の規範は様々な部分で壊れております。物質的繁栄や偏狭な客観的認識に意識の多くを捕らわれて、自身の主観的な認識をなおざりにして来た咎めが来ているのかも知れません。好むと好まざるとに関わらず、規範の多くは個々人の自我の融合と主観的な認識の整合性の上に成り立っております。また、その範囲に置いて、科学などの客観的な認識は如何なる力も持ち得ません。我々は、客観的な認識が主観的な認識を補完する為の手段に過ぎない、と言う事を再認識しなくては為りません。主観的認識への無関心は心の整合性を壊して、その時々の感情が行動に直結する傾向を助長させるように思われます。これをこの侭にして、放っておくと、人間性の崩壊、文化の崩壊、ひいては共同体の崩壊へと繋がる可能性も全く、ない、とは言い切れません。 文化は規範の源であり、共同体の求心力でもあります。そして、その様な規範は組織と言う器では無く、個人間の率直な情報交換と意識とによって支えられております。自我の観点から言うならば、それは自我の融合によって支えられております。 しかしながら、現状を見ると、組織の保全が優先されて、個々人の精神と問題は蔑ろにされております。また、個々人の情報交換も、その多くは組織を通して行われますが、その様な情報交換は組織の論理が混入する故、個々人の意思の疎通は疎外される可能性を孕んでおります。 情報交換の過程で、当人すら気づかぬ間に、組織の意図と本人の意図、そして、送り主や受取人の意図などが取り違えられて、認識される、というケースも、まま、在りそうです。この様な社会状況の下では、本当の自我の融合はし難いように思われます。つまり、本来の規範の効果が減衰する可能性を孕んでおります。勿論、規範の有効性を保持する上で、組織の力は必要です。しかしながら、規範を産み出すのは組織では無く、あくまでも文化、すなわち、人々の自我の融合なのです。 ＊　参照：９．文明と自我　〜　近年の政治と過適応 　１０．自我についての補足説明
			はじめに・日本の精神的諸問題　　 １．文化と文明　〜　生態系と民族 　　２．日本文化への基礎的理解 　　　　２−１．日本民族の形成 　２−２．日本の言語 　　　　２−３．日本人の脳と日本の文化 　　３．神々に潜む縄文の精神 　　　　３−１．我々の精神の二重構造 　３−２．別天津の神の神性 　　　　３−３．神々の変質 　３−４．神々の里 　３−５．恵比須の誕生
	４．縄文の世界観 　　　　４−１．縄文の世界〜利益と物々交換 　４−２．縄文人の宗教観 　４−３．「国産み」と「イタｸ 」の思想 　４−４．我々に潜む世界観 　　５．神産霊神、高皇産霊神に見るサブジェクトとオブジェクト 　　６．認識主体から見る物理世界（固有の時間、主観的時間、客観的時間） 　７．情報と認識主体
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